意味のない文章をあえて使う理由
ダミーテキストは、誰にも読ませないために存在します。まだ形を詰めている画面に本物の文章を入れると、レビューの場が原稿会議に変わります。表現は正しいかと誰かが問い、別の誰かが誤字を直しているあいだ、行長や余白を見る人はいなくなります。ラテン語のように見えて意味のない単語は、視線をページの形にとどめてくれます。
同じ単語を繰り返したり「テストテストテスト」で埋めたりしても代わりにはなりません。実際の文章は長い語と短い語が混ざってリズムを作り、その幅で段落がきれいに見えるかどうかを決めているのは、まさにそのリズムだからです。
分量は入ってくる原稿に合わせる
いちばん多い失敗は、見栄えのいい分量を作ってしまうことです。ダミー40語に合わせて組んだカードは、原稿が90語で届いた瞬間に崩れます。
流し込む前に実際の分量を確認し、まだ誰にも分からないなら最悪の場合を基準にしてください。いちばん長い見出し、いちばん長い商品名、いちばん詰まった段落です。高さが決まった部品を試しているなら、段落ではなく単語の単位で作るほうが向いています。制限とそのまま結びつく単位はそれだけです。
翻訳が入ると分量はまた変わります。日本語は同じ内容を英語より少ない字数で書ける一方、行の高さは余分に取ります。英語からドイツ語へ移ると3割ほど増えます。多言語で出す画面なら、増える側と減る側の両方に余裕を残してください。
使ってはいけない場面
ユーザビリティテストには使いません。ラテン語だらけの画面で課題をこなしてくださいと頼んでも、ラベルが意味を成しているかは判断できず、そうして得た結果は実際の製品について何も語りません。
決まった形式の値が入る欄にも使いません。氏名、住所、金額、日付にはそれぞれ長さの分布があり、姓が長い人や桁数の多い金額で崩れる行は、ダミーテキストでは表に出てきません。
そして公開前に必ず確認してください。ダミーテキストがそのまま本番に出てしまう事故は昔からの定番で、書き出しがいつも同じなので検索で見つけるのは簡単です。
プレーンテキストとHTMLの使い分け
デザインツールやスライド、モックアップに貼るならプレーンテキストを選んでください。テンプレートを埋めているなら、段落ごとにタグが付いたHTML出力のほうが向いています。スタイルシートの余白の指定が、本番と同じ形で効くからです。
この単語はどこから来たのか
この一節は、紀元前45年にキケロが書いた倫理学の著作のラテン語を崩したものです。16世紀の印刷職人がその一部をかき混ぜて活字見本を作り、同じ文章が1960年代にはこすって転写するレタリングシートとして売られ、1980年代にはDTPソフトに同梱されました。古典哲学の一段落が壊れたまま、デザインの世界の標準的な埋め草になった経緯です。